ポストCookie時代のコネクテッドTV広告:メディアプランナーが知るべきターゲティング・計測の課題とソリューション
コネクテッドTV(CTV)広告は、その高いリーチと没入感から、近年注目度が高まっています。テレビの持つ信頼性とデジタルのターゲティング・計測能力を兼ね備える可能性を秘めている一方で、サードパーティCookieに依存しない環境であることから、ポストCookie時代におけるターゲティングや効果計測においては独自の課題が存在します。
特にメディアプランナーの皆様にとっては、CTV広告のポテンシャルを最大限に引き出しつつ、プライバシーに配慮した形で適切なオーディエンスにリーチし、その効果を明確にクライアントに示すことが求められています。本記事では、ポストCookie時代におけるCTV広告のターゲティングと計測の課題、そしてそれらを克服するための主要なソリューションについて解説します。
CTV広告におけるポストCookie時代のターゲティング・計測課題
CTVはスマートフォンやPCとは異なり、サードパーティCookieによるトラッキングが機能しません。また、複数人が一台のデバイスを共有したり、異なるデバイスで同じアカウントを利用したりするなど、ユーザーの識別が複雑になる特性があります。これらの要因から、以下のような課題が発生します。
- ユーザー識別の困難さ: 共有デバイスや異なるIDでの利用により、個人単位での正確なフリークエンシーキャップやターゲティングが難しい場合があります。
- クロスデバイス・クロスプラットフォーム計測の複雑さ: CTVで広告を見たユーザーが、スマートフォンやPCでコンバージョンに至った場合、その貢献度を正確に把握することが困難です。
- オンライン・オフライン効果の紐付け: CTV広告が店舗来店や購買に与えた影響を直接的に計測する仕組みが限定的です。
- 標準化された識別子の欠如: パブリッシャーやデバイスごとに独自のIDが使用されることがあり、横断的なターゲティングや計測を妨げる要因となります。
ターゲティングの代替手法
これらの課題に対し、CTV広告では以下のような代替手法が活用されています。
- アカウントベースターゲティング: ログインを伴うCTVアプリやプラットフォームで取得されたアカウント情報(デモグラフィック属性、視聴履歴など)を活用する手法です。ユーザーが同意している範囲で、より精緻なターゲティングが可能になります。
- ファーストパーティデータ活用: CTVアプリを提供するパブリッシャーやデバイスメーカーが自社で保有するデータ(視聴データ、アプリ利用履歴など)を利用したターゲティングです。特定のコンテンツをよく視聴する層や、特定のアプリを利用する層にリーチできます。
- コンテキストターゲティング: 視聴している番組のジャンル、内容、チャネル、時間帯など、コンテンツの文脈に基づいて広告を配信する手法です。ユーザーの興味関心と関連性の高いコンテンツに広告を表示することで、高いエンゲージメントが期待できます。
- ハッシュ化されたID/IDグラフ連携: ユーザーが同意した上で、メールアドレスなどの識別子をハッシュ化し、IDグラフプロバイダーやデータクリーンルームを介してCTV環境の識別子(可能であれば)と連携させることで、クロスデバイスでのユーザー特定やターゲティングを試みる手法です。
- 位置情報データ: IPアドレスやGPS情報(ユーザーの同意に基づく)から家庭の位置情報を特定し、そのエリアに住むユーザー層の属性や行動傾向に基づいてターゲティングを行う場合があります。ただし、プライバシーへの配慮が特に重要です。
- 集計データ/モデリング: 特定のセグメントの全体的な視聴傾向や行動パターンを示す集計データや、機械学習によるモデリングを用いてターゲティングの精度を高める手法です。個人の特定を避けつつ、効果的なリーチを目指します。
効果計測の代替手法
効果計測に関しても、直接的なラストクリック計測が難しいCTV環境では、間接的あるいは集計的なアプローチが中心となります。
- 基本的指標: インプレッション数、完了視聴率(VCR)、ビューアブル率、フリークエンシー(接触頻度)など、基本的な配信指標は引き続き重要です。フリークエンシーキャップ設定による過度な広告接触の抑制も、効率的な予算配分に役立ちます。
- ウェブサイトトラフィック分析: CTV広告露出後に、広告主のウェブサイトへのトラフィック増加や、特定のページ(例: 製品ページ、問い合わせページ)へのアクセス増加を分析することで、CTV広告の間接的な効果を推測します。特定のランディングページへの誘導を促すことも有効です。
- リフト調査: ブランド認知度、購入意向、メッセージ連想などのブランド指標が、CTV広告接触群と非接触群でどのように変化したかを調査(サーベイ)する手法です。ブランドリフト効果の測定に広く用いられています。
- オフラインデータ連携: データクリーンルームなどを活用し、CTV広告接触データとPOSデータやCRMデータなどのオフライン購買データをセキュアに連携・分析することで、CTV広告の店舗来店や購買への影響を計測します。プライバシー保護技術の利用が前提となります。
- コンバージョンモデリング/MMM: 統計モデルや機械学習を用いて、様々なマーケティングチャネル、季節性、プロモーションなどの要因が売上やコンバージョンに与える影響を分析するMMM(マーケティングミックスモデリング)や、限られた観測データからコンバージョン確率を推定するコンバージョンモデリングも有効な手法です。プライバシーに配慮しつつ、全体的な広告効果を把握できます。
- サプライヤー/プラットフォーム提供の計測ソリューション: 各CTVプラットフォームやアドテクベンダーは、自社環境内での計測ツールや、外部パートナーとの連携による計測ソリューションを提供しています。これらの機能を活用し、可能な範囲で効果を可視化します。
実践に向けた提言
メディアプランナーの皆様がCTV広告を効果的に活用し、クライアントへの説明責任を果たすためには、以下の点を考慮することが重要です。
- 単一のソリューションに依存しない: ポストCookie時代の広告技術全般に言えることですが、CTVにおいても、ターゲティングと計測には複数の手法やデータソースを組み合わせることが現実的です。アカウント情報、コンテキスト、ファーストパーティデータ、集計データ、そして後続行動分析などを統合的に活用する戦略が必要です。
- サプライヤーとの緊密な連携: CTV広告のエコシステムは多様であり、各パブリッシャー、プラットフォーム、アドテクベンダーが独自のソリューションやデータ連携の仕組みを持っています。彼らと密接に連携し、利用可能なターゲティングオプションや計測能力、データプライバシーへの対応状況などを確認することが不可欠です。
- テストと学習の継続: CTV広告は比較的新しい分野であり、その効果的な活用法は常に進化しています。様々なターゲティング手法や計測アプローチを試行し、キャンペーンの目的に対して何が最も効果的であるかをテストし、そこから学ぶ姿勢が重要です。
- クライアントへの丁寧な説明: CTV広告の特性上、従来型のCookieベースの計測指標とは異なるアプローチが必要となることを、事前にクライアントに十分に説明し、期待値を適切に設定することが求められます。基本的な配信指標に加え、ブランドリフト調査やウェブサイトトラフィック分析、オフラインデータ連携など、複数の視点から広告効果を示す準備をしましょう。
- プライバシー規制への配慮: CTV環境でのデータ利用も、GDPRやCCPA、日本の改正個人情報保護法などのプライバシー規制の対象となり得ます。同意取得プロセスやデータ利用の透明性について、パブリッシャーやベンダー任せにせず、自社のキャンペーン設計においても十分に理解し、遵守する姿勢が不可欠です。
まとめ
ポストCookie時代のCTV広告におけるターゲティングと計測は、サードパーティCookieに依存しない環境特有の複雑さを伴います。しかし、アカウントベースデータ、ファーストパーティデータ、コンテキスト、集計データ、そしてデータクリーンルームなどを活用した多様な手法を組み合わせることで、プライバシーに配慮しつつ効果的なリーチと計測を実現することが可能です。メディアプランナーとしては、これらの新しい技術や手法を深く理解し、サプライヤーとの連携を強化し、テスト&ラーニングを通じて最適な戦略を構築していくことが、CTV広告市場の成長を捉える鍵となります。