ポストCookie時代ガイド

メディアプランナーのための:ポストCookie時代におけるサプライサイド(SSP/メディア)の対応と新しいバイイング戦略

Tags: ポストCookie, サプライサイド, SSP, メディアバイイング, ファーストパーティデータ, 代替ID, コンテキストターゲティング, Privacy Sandbox

ポストCookie時代への移行は、広告業界全体に大きな変化をもたらしています。特に広告在庫の価値化と収益最大化を担うサプライサイド(SSPおよびパブリッシャー/メディア)は、ユーザー識別子としてのサードパーティCookieに依存しない新たな戦略の構築が急務となっています。メディアプランナーの皆様にとっては、クライアントの広告効果を最大化するために、サプライサイドがどのようにこの変化に対応し、どのような新しい価値を提供しようとしているのかを深く理解し、ご自身のバイイング戦略を再構築することが不可欠です。

この記事では、ポストCookie時代におけるサプライサイドの主な対応策と、メディアプランナーがそれをどのように評価し、新しいバイイング戦略に組み込んでいくべきかについて解説します。

サプライサイドが直面するポストCookie時代の課題

サードパーティCookieが廃止されることで、サプライサイドは主に以下の課題に直面しています。

これらの課題に対処するため、サプライサイドは多岐にわたる技術的および戦略的な対応を進めています。

サプライサイドの主な対応策と広告在庫の価値化戦略

サプライサイドは、Cookieに依存しない形で広告在庫の価値を維持・向上させるため、様々なアプローチを組み合わせています。メディアプランナーとしては、これらの対応策を理解し、媒体を選定・評価する際の新たな基準とする必要があります。

1. ファーストパーティデータの積極活用と自社ID(PPID)の導入

パブリッシャーは、自社サイト/アプリ内で収集したユーザーのファーストパーティデータを最も重要な資産と位置付け、その活用を強化しています。

2. 代替IDソリューションとの連携

オープンウェブにおいてユーザーを横断的に識別する試みとして、様々な代替IDソリューションが登場しています。サプライサイドはこれらの主要なソリューションとの連携を進めています。

3. コンテキストターゲティングの高度化

ユーザーの識別が難しくなる中で、コンテンツの内容に基づいたコンテキストターゲティングが再び注目されています。サプライサイドは、この精度向上に投資しています。

4. プライバシーサンドボックスAPIへの対応

Google ChromeのPrivacy Sandboxは、ユーザーのプライバシーを保護しながら広告配信を可能にするためのAPI群です。サプライサイドは、これらのAPI仕様を理解し、自社プラットフォームへの実装準備を進めています。

サプライサイドは、これらのAPIへの対応を通じて、Google Chrome上での広告配信・計測機会を維持しようとしています。

5. データクリーンルームの活用

パブリッシャーが保有するファーストパーティデータを、プライバシーに配慮した環境で広告主のデータと安全に連携・分析するために、データクリーンルームの活用も進んでいます。

SSPの役割変化とメディアプランナーへの示唆

ポストCookie時代において、SSPは単なる在庫最適化ツールから、多様なシグナルと識別子を処理し、広告主に高度なターゲティング・計測機会を提供するプラットフォームへと進化しています。

メディアプランナーがサプライサイドの対応をどう評価し、新しいバイイング戦略を構築するか

サプライサイドのこれらの対応を踏まえ、メディアプランナーは以下の点を考慮してバイイング戦略を再構築する必要があります。

  1. 媒体のファーストパーティデータ活用能力の評価:
    • 媒体はどれだけのリッチなファーストパーティデータを保有しているか(ログイン率、サイト内行動深度など)。
    • どのようなファーストパーティオーディエンスセグメントを提供しているか。そのセグメントの定義は明確か、規模は十分か。
    • PPIDを導入しているか、またそのSSP/DSPへの連携状況はどうか。
  2. 代替IDソリューションへの対応状況の確認:
    • 媒体/SSPはどの代替IDソリューションに対応しているか。
    • クライアントが活用したい代替IDと媒体の対応状況が一致しているか。
    • 代替IDによるリーチ規模はどの程度か。
  3. コンテキストターゲティングの提供能力の評価:
    • 媒体のコンテンツ解析技術の精度はどの程度か。
    • どのようなコンテキストカテゴリを提供しているか。クライアントの商材や目的に合ったカテゴリがあるか。
    • リアルタイムコンテキストターゲティングは可能か。
  4. Privacy Sandbox対応の進捗確認:
    • 媒体/SSPはTopics APIやProtected Audience APIなどの主要APIにどのように対応しているか。
    • Attribution Reporting APIを用いた計測連携は可能か。
  5. データクリーンルーム連携の可能性:
    • 媒体はデータクリーンルームを通じたデータ連携に対応しているか。
    • 連携可能なクリーンルームの種類(主要プラットフォーマー系、ベンダー系など)を確認する。
    • データ連携にかかるコストや手順、タイムラインを把握する。
  6. 新しいバイイング手法の活用:
    • データ連携型PMP/Deal ID: 媒体の特定のファーストパーティデータや代替IDと連携したPMP/Deal IDの活用を検討します。これにより、特定の高品質なオーディエンスに対して優先的にリーチすることが可能になります。
    • 多様なシグナルの組み合わせ: ファーストパーティデータ、代替ID、高度なコンテキスト情報を組み合わせたターゲティング手法を検討し、テストします。
    • 媒体横断での識別子活用: 複数の媒体が共通の代替IDに対応している場合、そのIDを活用して媒体横断でのターゲティングやフリークエンシー管理を試みます。
    • コンバージョンモデリングやMMMとの連携: 媒体側で提供される計測データ(Attribution Reporting API経由など)と、広告主側や第三者のモデリング手法(コンバージョンモデリング、MMMなど)を組み合わせて効果を評価します。
  7. 透明性の確認とコミュニケーション:
    • SSPや媒体に対して、どのような識別子やデータが活用されているのか、その精度やカバレッジはどうなっているのかについて、積極的に情報開示を求めます。
    • 広告主のプライバシーポリシーやデータ活用の許諾範囲と、媒体側の対応が合致しているかを確認し、必要に応じて調整を行います。

課題と今後の展望

サプライサイドのポストCookie対応は急速に進んでいますが、まだ多くの課題が存在します。代替IDソリューションの普及度合いにはばらつきがあり、どのソリューションがデファクトスタンダードになるかは不透明な状況です。また、異なる技術(ファーストパーティデータ、代替ID、コンテキスト、Privacy Sandbox)をどのように最適に組み合わせるかは、継続的な検証が必要です。データ連携におけるプライバシー保護と利便性のバランスも常に議論の対象となります。

メディアプランナーとしては、これらの変化と不確実性を踏まえつつ、常に最新の技術動向とSSP/媒体の対応状況をキャッチアップし、テストを通じて効果的なバイイング戦略を見出していく粘り強い姿勢が求められます。媒体選定の基準も、「リーチ規模」や「デモグラフィック情報」だけでなく、「ポストCookie時代のデータ活用能力」「提供可能なシグナルの種類」「プライバシー対応の信頼性」といった観点がより重要になります。

結論

ポストCookie時代において、サプライサイドはファーストパーティデータ活用、代替ID連携、コンテキスト高度化、Privacy Sandbox対応など、多角的なアプローチで広告在庫の価値化を進めています。メディアプランナーは、これらのサプライサイドの対応を深く理解し、媒体ごとのデータ活用能力や提供されるシグナルを見極めることが、効果的なバイイング戦略構築の鍵となります。

新しい技術や手法は日々進化しており、これまでのメディアプランニングの知識に加えて、アドテクの技術的側面やプライバシー規制への深い理解が不可欠です。サプライサイドとの緊密なコミュニケーションを図りつつ、多様なソリューションをテスト・評価し、クライアントのビジネス目標達成に向けた最適な広告配信手法を確立していくことが、メディアプランナーとしての重要な役割となります。